「綿に昇華転写」の
本当の意味
染まっているのは、綿ではなく樹脂
昇華転写は、ポリエステル専用のプリント方法です。ところが最近、「綿に昇華転写できる」という言葉を見かけるようになりました。実は当社も、パウダープリントの説明で「綿に昇華」という言葉を使ったことがあります。
ただ、この言葉は説明が足りていません。そのまま受け取ると「昇華プリンターで刷れば綿も染まる」と勘違いしてしまいます。この記事では、「綿に昇華転写」で実際に何が起きているのかを、ふつうの昇華転写と比べながら正しく解説します。

- ふつうの昇華転写(200℃・1分でプレス)では、綿は染まらない
- 「綿に昇華転写」と呼ばれる方法は、綿の上に定着させた樹脂に昇華転写している。綿そのものを染めているわけではない
- やり方は2通り。①綿に樹脂を塗る方法と、②パウダープリントシートを使う方法
- ①は2010年の研究報告で洗濯堅牢度(変退色)3級。②は4〜5級
- どちらも染めた仕上がりにはならず、少し硬くなる。白・淡色の生地が前提で、作業にも手間がかかる
- 綿や濃色の生地に商品として刷るなら、白トナー転写のほうが向いている
おさらい:昇華転写とは
昇華転写は、昇華インクを熱で気体にして、生地を染めるプリント方法です。昇華プリンターで印刷したシートを、白のポリエステル生地に200℃・1分ほどプレスしてはがすと、インクが気化してポリエステルの繊維に入り込み、染めたような仕上がりになります。やわらかい仕上がりが特徴です。
インクが反応して入り込むのはポリエステルの繊維だけです。当社はポリエステル100%をおすすめしていますが、ポリエステル50%以上なら、と案内しているところもあります。いずれにしても、昇華転写はポリエステルが前提です。
※しくみや温度・時間は昇華転写の基礎で詳しく解説しています。
「綿に昇華転写」の正体
「綿に昇華転写ができる」と聞くと、昇華プリンターで印刷したシートを、200℃・1分で綿の生地にプレスすれば、染まったように仕上がるとイメージすると思います。でも、そうはなりません。綿に昇華転写するには、綿の生地に何らかの加工をしてあげる必要があります。
現在、「綿に昇華転写」とうたっているやり方は、2通りあります。
方法① 綿に樹脂を塗ってから昇華転写する


- 綿の生地に樹脂を塗るアクリル系などの液体の樹脂を、ローラーでコロコロと塗ります。
- プレスして、樹脂を生地に定着させる熱をかけて、綿の上に樹脂の層を作ります。
- 昇華インクで印刷したシートをプレスする綿の上の樹脂に、昇華転写します。
研究報告で分かっていること
このやり方は、東京都立産業技術研究センターの研究報告(2010年)で、商品として使えるか、洗濯にどれくらい耐えられるかが検証されています。「綿に昇華転写」でGoogle検索すると見つかるので、興味のある方は読んでみてください。ポイントは2つです。
| ポイント | 研究報告の内容 |
|---|---|
| 樹脂の量 | たくさん塗るほど定着が強くなり、色も濃くなる。一方で、生地が硬くなり、着心地が悪くなる |
| 洗濯堅牢度 | 変退色3級。改善が必要な結果 |

樹脂を塗って定着させても、インクが止まっているのはあくまで樹脂の上です。樹脂そのものが生地にしっかり付いていないと、洗濯で落ちてしまいます。研究報告のまとめは「昇華プリンターでポリエステル以外の生地にもプリントできる可能性が広がった」という前向きなものですが、商品としてはまだ課題があるという内容でした。
方法② パウダープリントシートを使う(実演)
次は、当社で販売している昇華プリンターでパウダープリントシートに印刷し、綿に転写する方法です。方法①では生地の上に樹脂を塗りましたが、こちらはシートの上に樹脂(パウダー)をのせて、それを綿に定着させます。
- 昇華プリンターで、パウダープリントシートに印刷する昇華インクで、ふつうに印刷します。
- 印刷したら早めに、インクの部分にパウダーをかける袋から粉を出し、インクの上にまんべんなくつけます。目安は印刷後30分〜1時間以内。乾きすぎるとインクが少なくなり、定着が悪くなります。
- 余分なパウダーをしっかりはたくインクの付いた部分にだけ粉が残るようにします。
- 150℃・30秒で綿にプレスする通常のパウダープリントと同じ温度・時間です。
- 完全に冷めてからはがすパウダーが付かなかった部分は、転写されにくいことがあります。



色をつけた樹脂が熱で溶けて繊維に入っていくしくみなので、繊維であれば基本的に大丈夫です。綿にこだわる必要もなく、木材にもプリントできます。ただし、生地の色は白や淡い色が前提です。黒や濃い色の生地へのプリントは難しくなります。
※同じパウダープリントシートは、ふつうの染料インクでも使えます。昇華インクは熱による変色がないため、パウダープリントでも昇華インクを使ったほうが仕上がりはきれいです。
ふつうの昇華転写と比べると


| 比べる点 | ポリエステルに昇華転写 | ①綿に樹脂を塗る | ②パウダープリント |
|---|---|---|---|
| 染まっているもの | ポリエステルの繊維 | 綿の上の樹脂 | パウダーの樹脂 |
| 発色 | 明るい | 樹脂の量しだい | 少しくすむ。ベタはまずまず |
| やわらかさ | やわらかい。貼った感じがない | 塗るほど硬くなる | 少し硬くなる |
| 洗濯堅牢度(変退色) | 高い | 3級(2010年の研究報告) | 4〜5級 |
| 生地の色 | 白・淡色 | 白・淡色 | 白・淡色 |
| 作業の手間 | 印刷してプレスするだけ | 樹脂を塗る・定着させる工程が増える | 1枚ずつ粉をかける。放置・積み重ねができない |
パウダープリントの方法は、洗濯堅牢度では4〜5級と比較的強い結果が出ています。ただ、発色ややわらかさは、やはり白のポリエステルにふつうの昇華転写をしたほうが上です。
綿にプリントしたいなら、どう選ぶか
昇華プリンターでの量産が向いているのは、本業であるマグカップ、白のポリエステルのタオルやTシャツ、スマホケースなど、昇華に向いた製品です。もともとプリントの不具合が少ない分野なのに、綿を軸にすると、やはり不具合が出てくると思います。
皆さんの目的は、お客様に喜んでもらい、商売を繁盛させることだと思います。あえて昇華プリンターと昇華インクを使って綿に刷る理由がどこにあるのか、一度確認してみてください。副産物として試すのはおもしろいと思いますが、個人的には、昇華転写は昇華に向いたものに使うのが一番です。
| 作りたいもの | おすすめ |
|---|---|
| 白のポリエステルTシャツ・タオル | 昇華転写 |
| マグカップ・スマホケースなどのグッズ | 昇華転写 |
| 綿のTシャツ(白・淡色) | 白トナー転写(パウダープリントは小ロットの試作向き) |
| 綿・ポリの濃色Tシャツ、黒に白いプリント | 白トナー転写 |
※この記事の内容は、動画を収録した2020年11月時点の情報です。昇華プリンターで綿に堂々と商品として出せる方法は、当社もメーカーとして開発を続けています。
昇華染料で染めたポリエステルの上に白トナー転写などを重ねると、下の色が浮き上がるブリード(再昇華)が起きることがあります。ブリード(再昇華)を徹底解説もあわせてご覧ください。
よくある質問
- 綿のTシャツに昇華転写はできますか?
- ふつうの昇華転写(昇華インクで印刷して200℃・1分でプレス)では、綿は染まりません。「綿に昇華転写」と呼ばれる方法は、綿の上に樹脂を定着させ、その樹脂に昇華転写するものです。綿そのものを染めているわけではありません。
- 綿に昇華転写したものは洗濯に強いですか?
- 方法によって大きく違います。綿に樹脂を塗る方法は、2010年の研究報告で洗濯堅牢度(変退色)3級でした。パウダープリントシートを使う方法では4〜5級を取っています。
- 綿ポリ混紡なら昇華転写できますか?
- 昇華インクが定着するのはポリエステルの部分だけです。ポリエステルの割合が少ないほど洗濯に弱くなります。当社はポリエステル100%をおすすめしています。
- パウダーは印刷してからどれくらいでかければいいですか?
- 当社で販売している昇華プリンターの場合、目安は印刷後30分〜1時間以内です。乾きすぎるとインクが少なくなり、定着が悪くなります。
- 黒い綿のTシャツにも使えますか?
- どちらの方法も、白や淡い色の生地が前提です。黒や濃い色の生地には、白トナー転写などの白を表現できる方法が向いています。
この記事のもとになった動画
【疑問】綿に昇華転写について解説します(約14分・2020年12月1日公開・2020年11月時点の情報)
綿にも、黒にも、白にも。
まずは仕上がりを触ってみてください
昇華プリンターと白トナープリンターの両方を扱うクイックアートが、作りたいものに合う方法をご案内します。
東京・大阪・福井でのデモ体験、オンラインでの個別説明も受け付けています。
メーカーの売り文句ではなく、現場で刷って、売って、サポートしてきた事実だけをお伝えします。


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