ウェアプリントの製法を
ぜんぶ解説【後編】
プリント機器を選ぶとき、いちばん避けたいのは「買ってから、やりたいことに合わないと気づく」ことです。そのためには、気になる機械1台だけでなく、ウェアプリントの製法全体を知っておくのが近道です。
この記事は、代表的な8つの製法を解説するシリーズの後編です。昇華プリント・ガーメントプリント(DTG)・白トナープリント・刺繍の4つを、仕組み・得意なロット・設備投資の目安・活躍している業界から解説し、最後に8製法の要点をまとめます。
この記事は後編です(昇華プリント・ガーメントプリント・白トナー・刺繍)。シルクスクリーン・カッティング・溶剤プリント・DTFは前編で解説しています。
- 昇華プリントはインクを生地に染める製法。大型機はスポーツユニフォームなどの大ロット、小型機はマグカップで活躍。生地は基本的に白(淡色)のポリエステル限定
- ガーメントプリンター(DTG)はTシャツをセットしてボタンを押すだけ。染み込んだ柔らかい仕上がりがアパレルブランドに好まれる。ただし機械と保守が高額で、基本は綿のみ。複数台を回し続ける現場向き
- 白トナーは綿・ポリ・ナイロンに同じ工程でプリントでき、メンテナンス料がかからない。小ロット・多品種を低い設備投資で始めたい方向き。1000枚単位の大ロットは他製法が有利
- 刺繍は唯一無二の仕上がりで高級感がある。伸縮の強いアイテムなど、転写ができないところで重宝される
- どの製法にも得意と苦手がある。自分のやりたいこととのマッチングが何より大切
後編で扱う4製法の比較表
昇華プリントは、大型機と小型機でできることが大きく違うため、分けて並べています。
| 製法 | 得意なロット | 色・素材 | 設備投資の目安 | 活躍している場所 | 苦手なこと |
|---|---|---|---|---|---|
| 昇華(大型) | 大ロット | フルカラー/白いポリエステル | プリンター300万円〜+大型プレス機100万円〜 | スポーツユニフォーム、アパレル製造 | 綿・濃色、小ロット |
| 昇華(小型) | 1個から | フルカラー/白いポリエステル、昇華用マグカップなど | A4プリンター約8.5万円、マグカップ用プレス機約2.6万円 | マグカップなどの雑貨 | ウェアは生地の選択肢がかなり狭い |
| ガーメント(DTG) | 中〜大ロット(1枚からも可) | フルカラー/基本的に綿 | 200万円〜(白インク対応機) | アパレルの綿Tシャツ。複数台を回す現場 | ポリ・ナイロン、濃色の前処理、保守・クリーニング費 |
| 白トナー | 小〜中ロット | フルカラー(白含む)/綿・ポリ・ナイロン | プリンター+プレス機で50万円程度(撮影時) | 小ロット・多品種のTシャツ屋さん | 1000枚単位の大ロット(スケールメリットが少ない) |
| 刺繍 | 小〜大(大は複数台) | 単色または多色(機種による) | 単色50万円〜、多色100万円〜 | 伸縮の強いアイテム、高級感が欲しいもの | 刺繍らしい表現に限られる |
※設備投資の目安は動画撮影時(2023年12月)の一般的な価格帯です。2026年の変化は各製法の「2026年の補足」をご覧ください。
※この記事は、これからプリント業を始める方に向けた一般論です。当社は白トナープリンターと小型DTFプリンターを販売しているため、事実と客観性に努めていますが、販売店としての見方が入る部分があります。
昇華プリント:生地を染める。大型と小型で別物
昇華プリントは、昇華インク(CMYK)で印刷した紙を生地に重ね、熱と圧力でインクをポリエステルに染める製法です。転写の中でも、表面に何かを貼るのではなく染まった仕上がりになるのが特徴です。ただし、昇華プリンターは小型と大型で機械のスペックが大きく違います。
大型の昇華プリント
大型の昇華プリンターで長尺の紙に印刷し、白いポリエステル生地に重ねて、プリンターの幅よりもさらに大きなプレス機で熱プレス(200度・1分ほど)します。生地を直接プリンターにセットして印刷するダイレクト昇華のプリンターもあります。

活躍しているのは、スポーツのユニフォームです。サッカーのユニフォームは、基本的にすべて昇華プリントだと考えてください。ポリエステルが多く使われるアパレル製造の現場でも活躍しています。
機械はプリンターが300万円〜、大型プレス機が100万円〜と高額です。採算を合わせるには大きなロットで作り続ける必要があり、基本的に工場向けの製法です。
※動画内では大型昇華の価格帯を「1000万円」とお話ししていますが、言い過ぎでした。プリンター300万円〜、大型プレス機100万円〜が目安です。
小型の昇華プリント
小規模な事業者さんが小型の昇華プリンターでウェアにプリントする場合、ユニフォームのような全面プリントはできません。白いポリエステル生地にワンポイント、といった使い方になり、生地の選択肢はかなり狭いのが実情です。
小型で活躍しているのは、マグカップです。表面にポリエステルのコーティングがされた昇華用のマグカップに染めるので、食器洗いでごしごし洗っても問題ない強さがあります。A4の昇華プリンターが約8.5万円、マグカップ用のプレス機が約2.6万円(動画撮影時)と、手軽に始められます。

ガーメントプリント(DTG):ボタン1つで1枚から
仕組みと魅力
プリンターにTシャツをセットしてボタンを押すと、Tシャツが中に入り、CMYKのインクが生地に吹き付けられて染み込みます。最後に仕上げのプレスをすれば完成です。1枚からプリントできます。

活躍しているのは、アパレルの綿生地のプリントウェアです。大手アパレルのプリントTシャツにも多く使われています。インクが染み込んだ、貼った感じのない柔らかい仕上がり(白生地や前処理剤の質にもよります)が好きなアパレルブランドの方が多く、好んで使われています。
苦手なこと:濃色、素材、そして経済性
白いTシャツと濃色のTシャツでは工程が変わります。濃色の生地には、前処理剤を吹きかけたり塗ったりする手間が入ります。白インクのない機種は価格を抑えられますが、濃色にはプリントできません。また、プリントできる素材は基本的に綿のみです。

いちばん注意したいのは経済性です。白インク対応のガーメントプリンターは200万円〜(撮影時は400万円〜の新機種も多数)。さらに毎月の保守点検料やインクのクリーニング費用がかかります。ボタン1つで簡単に見えますが、200万円の機械と定額の保守を払って小ロットだけを刷るのでは、経済的に合いません。
| 項目 | ガーメントプリンターの目安(動画撮影時) |
|---|---|
| 価格帯 | 200万円〜(白インク対応)。1000万円を超える機種は素晴らしい仕上がり |
| ロット | 中〜大。1枚からできるが、月産200枚は欲しい(営業時間ずっと動かすのが理想) |
| 素材 | 基本的に綿のみ |
| 維持費 | 毎月の保守点検料、インクのクリーニング費用 |
ガーメントプリンターが本当に活躍しているのは、1か所に3台ほど並べ、オペレーターが1〜2人ついて、営業時間中ずっと動かしっぱなしにしているような、受注がたくさんある現場です。例外はありますが、基本的には大ロット生産の機械だと考えてください。
ガーメントプリンターでDTFをする場合
ガーメントプリンターでフィルムに印刷してDTFをする方法もあり、ポリエステルやナイロンに対応できるようになります。ただ、インク代が高額なため、「それなら最初からインク代が安価なDTFプリンターを導入した方が良い」というのが一般的な評価です。すでにDTGを持っている方にはメリットがありますが、大量生産をする業者さんなら、DTFプリンターを買い直した方が生産性は高くなります。
※エプソン公式仕様(SC-F2250 仕様、2023年7月12日 発表)および販売店の公開情報(SC-F1050)によります。詳しくはガーメントプリンター保有者が白トナーを導入する理由で解説しています。
白トナープリント:小ロット・多品種を低い設備投資で
ここからは当社が販売している製法なので、できるだけ得意と苦手の両方を書きます。
仕組み
白を含むトナーを使うレーザープリンターで、専用の転写シートに印刷します。糊シートと重ねてプレス機で合わせ、はがすとマーク(転写シート)の完成です。これを生地にプレスします。

得意と苦手
| 得意なこと | 苦手なこと |
|---|---|
| 綿・ポリエステル・ナイロン、トートバッグなどに同じ工程でプリントできる | 1000枚・500枚といった大ロット。1枚ずつの工程と時間がほぼ変わらず、スケールメリットが少ない |
| 細かいデザインも表現でき、1枚から作れる | 大量生産なら、シルクスクリーンやDTFの方が1枚あたりは安くなる |
| 保守料・メンテナンス料が不要。インクのクリーニングがなく、出力前のチェック時間もいらない | 1枚あたりの資材代はDTFより高い(当社試算で白トナーA4約374円、DTF A3約120円+印刷代約20円) |
| 設備投資が小さい(撮影時はプリンター35万円+プレス機で計50万円程度) | 糊付けを手作業で行うと、1枚60〜90秒ほどかかる |
ガーメントプリンターや溶剤プリンター、DTFプリンターなど、インクを使う機械の多くは毎年の保守料や、ノズル詰まりを防ぐインクのクリーニングの費用がかかります。仕事の前に10〜15分のチェックが必要なこともあります。白トナーはレーザープリンターなので基本的にそれがなく、売上が立たない月でも経済的な出費がありません。
向いている事業
当社のお客様は、月産100枚以下の方がほとんどです。月産100枚以下の範囲では、8つの製法の中で守備範囲(素材・色・デザイン)とコストパフォーマンスのバランスが良い、というのが当社の見方です。小ロットに特化した製法なので、大ロット向けのDTFが登場しても、当社の白トナーの販売台数はほとんど影響を受けていません(年間約100台ペース)。
逆に、月に何百万円分も大ロットを刷り続ける、もっと増やしていく、という方は、シルクスクリーンやDTFなど他の製法を検討した方がよいでしょう。
刺繍:誰が見てもわかる、唯一無二の仕上がり
刺繍は刺繍です。糸で縫う表現は、ここまで紹介したどの製法とも違う唯一無二の仕上がりで、ぱっと見て誰でもわかります。高級な印象を与えられるのも大きな魅力です。

特徴
| 項目 | 刺繍ミシンの目安(動画撮影時) |
|---|---|
| ロット | 小〜大(大ロットの場合は複数台) |
| 価格帯 | 単色50万円〜、多色100万円〜 |
| カラー | 単色、または多色(機種による)。糸の色を重ねてフルカラー風に表現するものも多い |
| 活躍している場所 | 熱転写では対応できないアイテム(靴下など伸縮の強いもの)、タオル、高級感が欲しいもの |
刺繍は1つから作れます。ただし、刺繍の現場は縫製なども含めて複数台を保有しているところが多いのが特徴です。1台の機械でたくさん作るので、どちらかといえば数を増やしていく方が経済的にプラスになります。
転写プリントは、伸びるものに貼って引っ張ると割れてしまいます。刺繍は糸で縫い止めているので、伸ばしても割れません。そのため靴下のワンポイントなど、伸縮の強いアイテムで重宝されています。
縫い方(横に縫うか縦に縫うか)や糸の方向で見え方が変わり、Tシャツのような薄い生地では縫った部分がくしゃっとなることもあります。きれいに仕上げるには経験が必要な、奥が深い製法です。
8製法のまとめ
前編・後編で紹介した8つの製法を、ひと言ずつにまとめます。まずはこのポイントだけ押さえてください。
| 製法 | ひと言でいうと | 向いている仕事 |
|---|---|---|
| シルクスクリーン | 版が必要。単色で大量生産 | 工場、大量のグッズ・アパレル生産 |
| カッティング | データ出力・単色・1枚から。カス取りが必要 | スポーツの背番号 |
| 溶剤プリント | フルカラー。カス取り必要、機械が高額 | 看板業、フルカラーの大量生産 |
| DTF | 溶剤プリントの省人化 | フルカラーの中〜大ロット(2026年は小型機も) |
| 昇華プリント | 白いポリエステルを染める | 大型はスポーツユニフォーム、小型はマグカップ |
| ガーメント(DTG) | 1枚から綿にプリント。アパレルで好まれる | 複数台を回し続ける綿Tシャツの現場 |
| 白トナー | 小ロット・多品種で低い設備投資 | 月産100枚前後までのTシャツ屋さん |
| 刺繍 | 独特の仕上がり、高級感 | 伸縮の強いアイテム、高級感が欲しいもの |
※前編の4製法(シルクスクリーン・カッティング・溶剤プリント・DTF)の詳しい解説は前編をご覧ください。
基本を知ると、新しい技術の価値がわかる
それぞれの製法の一般的な得意・不得意を押さえておくと、新しい製品が出てきたときに、その価値を自分で判断できるようになります。たとえば、溶剤プリントをやってきた人には「DTF」が革命だとすぐにわかりますが、何も知らなければ何がすごいのかわかりません。
プリントの世界では、技術革新が続いています。シルクスクリーンでも版代無料をうたうサービスが登場し、カッティングのカス取りも、いずれもっと簡単になっていくはずです。基本を押さえたうえで新しい技術を見ると、その製法に取り組むべきかどうかが見えてきます。
プリント機器は、購入後の返品にとても労力がかかります。自分のしたいことと、機器ができることのミスマッチを減らすために、買う前に最低限の基本を知っておいてください。納得して選んだ機械なら、後悔はありません。
よくある質問
- 昇華プリントは綿のTシャツにもできますか?
- 基本的にできません。昇華プリントはポリエステルに染める製法なので、白(淡色)のポリエステル生地が前提です。マグカップなど、昇華用にコーティングされた雑貨には向いています。
- ガーメントプリンター(DTG)はどんな事業に向いていますか?
- 綿のTシャツを中〜大ロットで作り続ける事業です。白インク対応機は200万円〜(撮影時)で保守料やクリーニング費用もかかるため、月産200枚程度は欲しいところです。複数台を営業時間中ずっと動かしている現場で活躍しています。
- ガーメントプリンターでDTFをするのはおすすめですか?
- すでにDTGをお持ちの方が、特殊な注文に対応するには便利です。ただしインク代が高く、白インクを使う印刷は時間がかかり、パウダー付けや焼き付けも手作業です。量産目的なら、DTF専用機の方が生産性は高いのが一般的な評価です。
- 白トナープリンターはどんな人に向いていますか?
- 月産100枚以下から中ロットまでの、小ロット・多品種が中心の方です。綿・ポリ・ナイロンに同じ工程でプリントでき、メンテナンス料がかかりません。1000枚単位の大ロットは、シルクスクリーンやDTFが向いています。
- 刺繍はプリントとどう違いますか?
- 糸で縫うので唯一無二の仕上がりになり、高級な印象を与えられます。伸縮の強い靴下など、転写では割れてしまうアイテムにも対応できます。刺繍ミシンは単色50万円〜、多色100万円〜が目安です。
- 8つの製法のうち、これからプリントを始めるならどれを選べばよいですか?
- やりたい仕事のロット・色・素材と、各製法の得意・苦手を照らし合わせて選ぶのが基本です。大量生産ならシルク・溶剤・DTF、背番号ならカッティング、綿Tシャツの大量生産ならDTG、小ロット・多品種を低い設備投資で始めるなら白トナー、高級感なら刺繍が向いています。
この記事のもとになった動画
【独自解説】ウェアプリントの各製法の特徴について 後半 業者様向けプリント講座(2023年12月公開。価格は当時のもの)
前半(シルクスクリーン・カッティング・溶剤プリント・DTF)はこちら(2023年12月公開。価格は当時のもの)
シルクスクリーン・カッティング・溶剤プリント・DTFの得意と苦手は【前編】ウェアプリントの製法をぜんぶ解説で解説しています。
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※本記事の価格・実績は2026年10月時点の情報です。動画内の設備投資額は撮影時(2023年12月)の一般的な目安です。
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